8/7 エルジェイへ

朝。今日はクズルを発って、東のエルジェイという場所に移動する。道のりが長いから朝の7時に出発だぜ!と息巻いていたオトクンさんは、時間通りには現れなかった(想定内)。のんびり構えて待ちましょうかーとしているうちに、ツアー参加者のうちの数名がお腹の調子を崩してしまったことが判明。ふとよぎるのは、ブータン、キルギスと二連敗中の自分の身だが、今回は幸い無事だった。キルギスでお腹を壊した時にもらった、「(消毒の意味で)必ずウォッカを飲むようにしろ」という忠告を守ったのが幸いした。か?

少し休んで様子を見ているうちに、オトクンさんも到着した。2名は大事をとってホテルに残り、他の皆はある程度回復して昼頃に出発。今日の移動手段は2台の屈強なロシアン・ジープで臨む。元々の悪路に加え、前日には雨が降って道の状態は相当悪いらしい。

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…かわいい。やって来たのはこの車だった。ヒアリングミスか「ロシアンジープ」と聞いた気がしてHAMMER的なゴツいのを想像していたが、ころん、としたこの車に分乗して移動する。



出発前に、ムングンオール作のドシュプルールを連れて帰るべく話をつけてもらったところ、5分後にはムングンオールがホテルに現れた。スーパースターは仕事が早い。本人も自分の楽器の行方を知りたがっていたようで、決断が遅れてごめんなさい。ムングンオールに、ドシュプルールのヘッドとボディを黒く塗っているのは何故かと尋ねると、『エジル・カラ(эзир кара:黒いワシ)』という名前の駿馬をモチーフにしているとのことだ(同名の歌も存在する)。作者の意図を聞くと、また愛着もひとしお。



さて、その黒いワシを携えつつ向かうエルジェイへの道中は、想像以上の悪路続き。右へ左へ前へ後ろへ、がったんごっとん激しく揺さぶられる。何もしていないとすぐに酔ってしまいそうなので、ウッペイさんと昨日の曲を一緒に歌い、セベックさんにカルグラを教えてもらいつつ進む。途中のトイレ休憩は、当然ながら大自然のなか。休みの間の少しの時間で、セベックさんはどこからか木の実を摘んできてくれた。

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その後、川にぶつかった。ここでは、車を船に乗せて対岸へと渡る。この船自体は動力を持たず、川の流れを利用して対岸へ渡るそうだ。船は、下流に流されないよう両岸に渡されたワイヤーに固定されており、その状態で川の流れを受けるように舵を取ることで、推力を得る…らしい。

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川を渡ったあとの悪路は、更に激しさを増していた。横転するのではないかというくらい傾いたり、身が浮くほど揺らされ、幾たびか立ち往生しつつ進んでいく。暫くして川の辺で下車、ここから船で対岸へと渡っていくようだ。到着した船着場には、美しい風景が広がっていた。静かに降る雨の音、遠くでひとり草を食む馬に括られた鈴の音。ほどなくして雨は止み、迎えの船が到着した。

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古いボートとモーターボートが1台ずつ。これらに分乗して対岸へと渡る。ぼくは前者へ乗り込む。水面が近く、陽の光が川面を照らして眩しい。途中、モーターボート組がすごい勢いで追い越していった。一方の我々ボート組はその後ものんびり川を進んでいく。途中、ボートの案内人(のちに「ミハイル」という名前だと知った)が山を指差して何かを教えてくれているが、ロシア語なので分からない。山頂になにかあるようだ。

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対岸へ到着。ここエルジェイは、ロシア正教の古き良き暮らしを残した場所だ。今日泊まるこのキャンプには、数軒の小屋以外は何ひとつない。自分の小屋に荷物を置いて一休み。いつの間にかまた降り出した小雨を避けつつ屋根のある玄関に椅子を置き、昼食までの時間を過ごす。ドシュプルール弦を左用に張り替え。耳を澄ますと鳥の声と静かな雨音以外は、遠くの小屋の周りの話し声が時折聞こえてくるだけだった。

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犬たちは、来訪者たちよりも睡眠が大事だ。

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そうこうしているうちに、早速の昼食。キッチンへと集まる。事前の心得として、ロシア正教では自分のもの以外の食器に触れてはいけないそうだ。キャンプのキッチンは流石に大丈夫そうだが、きちんと心に留めておく。昼食は、蜂蜜と共に焼いたトースト、塩味キュウリのサラダ、そばの実、スープなど。どれもとても美味しい。食後は「イワン・チャイ(иван чай)」をいただく。なんだなんだ、なにが入っているんだと皆の心を動かす、ほっとする味だ。

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材料となる草花を教えてもらったが、そういうことに疎いぼくはどのようなものか想像がつかない。帰国後に『иван чай』で検索してみると、たしかに道中見た花のことのようだ。(たしかに、写真も撮っていた)



ホーメイジが滞在する小屋から、なにか鳴き声のような音が聞こえてくる。セベックさんが白樺の皮を剥いで『エディスキ(эдиски)』という笛を作っていた。剃刀で厚切りパンのような形に切って、それをふたつに折り、口にくわえて唇か歯で軽く押さえつつ吹くと、ぷぃー!っと高い音がなる。木管楽器のリードのようなものだ。鳥や動物の鳴き声っぽく吹くことができ、狩りで獲物を誘い出す時などにも使用するらしい。セベックさんに作ってもらって、皆で吹く。最初はうまく音が出なかったが、コツを教えてもらいつつ試していると音が出るようになった。子供の遊びのような(実際そうなのかもしれない)意味もなく楽しい気持ちになり、暫くの間、無心になって吹き続ける。



その後、綺麗な景観を見渡しつつのんびり過ごす。一応ラフティングなどもあるそうだが、あまり興味は沸かなかった。巻上さんが馬に乗って現れる。いいないいなーと皆で順番待ち、大人しい白い馬に跨って周辺を散歩した。先ほどの船の案内人ミハイルが先導して、途中で赤い実を摘んでくれたりした。



夕食前にワークショップをやろう、とひとつの小屋に集合。ドシュプルールで『アー・シュー・デッケイ・オー(аа-шуу-декей-оо)』という歌の弾き方を教えてもらって、ウッペイさんと一緒に弾く。セベックさんにカルグラを教えてもらったが、ぼくは喉元寄りで雑音が鳴り過ぎているとのこと。「出し方は悪くはないが、(余計な雑音が)俺は嫌いだ」。間近でセベックさんのカルグラを聴くと、その音は丸く深い。「な、こっちの方がいいだろ」。セベックさんはにっこりと笑ってそう言った。

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ひとしきり声を出してお腹が減ったところで夕食。昼食と同じく、食卓の上は美味しいもの揃いで、もりもり食べ、その後に外に出て星を眺める。エルガキで教えてもらった北極星を探したが、基点となる北斗七星もカシオペア座も分からないくらいの星、そして天の川が見えた。(きちんと把握していれば、この中からでも簡単に探すことができるらしい。うーむ)



名前を呼ばれてなんだろう、と思ったら、ドシュプルールを持って来いというウッペイさんの伝言。おやおやなにかと思いつつ、小屋から楽器を持ってくると、キッチンでエルジェイの人たちと歌い合う催しが開かれていた。ウッペイさんセベックさんに混じって少し演奏。ホーメイジとエルジェイ、日本チームの三すくみで歌い合う。

しかし、自分に振られた時に歌える日本の歌がひとつもないことがショックだった(ごめんね、オトクンさん)。無力感。ああ、この感じは前にあったなと記憶の中を思い返してみたら、それはキルギスに行った時だ。カラコルで泊まった夜に向こうの家族に日本の歌を披露することができなかったことがあった。いやいや、その時にネタを持っておくべきだったと反省。(そして、今後の宿題)



暫く歌い合ったのちに解散、部屋に戻る。ぼくのお腹も少し、ごろごろとしてきたようだ。ぼくにもビッグウェーブが到来するのかしら。エルジェイの夜はけっこう寒く、小屋の薪ストーブを使うべきのようだ。ウッペイさん、セベックさんが代わる代わる薪ストーブの具合を見にきてくれた。優しい。暖かい部屋の空気の中、就寝。



…むはー、暑い!と夜中に飛び起きた。恐るべし薪ストーブの威力。薪をくべてくれたセベックさんが、小屋の壁を叩いて「ストーブで暖まって、バーニャのように暑くなるよ!」と笑っていたが、あれは冗談だったのか本気だったのか、その言葉は現実となった。汗だくになり、布団を脱ぎ捨てて寝た。
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by yoshi_nora | 2010-08-31 02:21 | 2010トゥバ


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